• 本作のオファーを受けた時の
    率直な印象を教えて下さい。

    とても興味のあるお話だったので、是非やりたいと思いました。僕が得意なのは青春ものだと思うけど実はどんなジャンルも好きだし、シンプルに女性に興味があるんです。演出家としてたくさんのテレビドラマを作ってきましたが、女性の脚本家やスタッフから「監督、違うのよ! 女の子はこうなのよ!」って言われることが今までたくさんあったので(笑)。こういう作品を自分が撮ることで、自分の中に何が生まれてくるのかという興味もありましたね。

  • 主演の土屋太鳳さん、
    芳根京子さんの印象は?

    お2人ともNHKの朝ドラで主役を張ってらっしゃいましたが、おそらく朝ドラって肉体的にも精神的にもすごくハードだと思うんです。それを乗り越えたということは絶対的に身に付いた力があるし、素地としてのポテンシャルも高いはず。最初にお会いした時、2人共やる気に満ち溢れていて、お芝居に対してすごく貪欲だなと感じたので「これはどうなっちゃうんだろう?」ってワクワクしました。

  • 実際、撮影でお2人を
    演出してみて感じたことは?

    今回は2人で2つの役をやらなきゃいけないっていう難しさがあったので、本人たちは大変だったと思います。お互いの演じるキャラクターを観察して、入れ替わった時にそれを模倣しながらも自分の色を出さないといけない。おそらくお互いの芝居を見て「こういうニナはいいな」とか「累のここは嫌だな」とか思うところはあったでしょう。そういう意味でも2人の力を借りながら、累とニナというキャラクターを一緒に作り上げていった感覚です。演出に関しては役者としてのタイプも違うから、例えば土屋さんにはわりとロジカルに意図を伝えて、芳根さんには「もう、これでやっちゃおうか!」って勢いで伝えたりという違いはあったかもしれない。でもすごく濃密な時間だったので、それぞれとのコミュニケーションはうまくいった気がしています。

  • 累とニナの“欲望”で結ばれた
    特異な関係性については?

    この2人って決して最初から憎しみだけで繋がっているわけではなくて、相手を思いやる気持ち、相手を陥れたい気持ちがせめぎ合っている複雑さがありますよね。でも僕はこの2人はある意味人間っぽいなと思う。怖い部分や汚い部分、そして優しい部分も全部あっての女性ですから。誰しもが欲望を持っていると思うけど、欲望に支配されると人って醜くなりますよね。その一方で欲望は何かに突き進むエネルギーにもなり得る。この2人のように強い欲望があると余計に「もっともっと!」ってなっちゃうのは理解できる気がします。

  • 印象に残っているシーン、
    手応えを感じたシーンは?

    撮影中に編集したものを見たいなと一番強く思ったのは、ニナが中盤で持病によって突然数か月もの長い眠りに落ちてしまうんですが、その眠りから覚めた後のくだりですね。2人が暮らすマンションのシーンは4日間くらい撮影しましたけど、その辺りからさらに2人の芝居が面白くなってきて。芳根さんがゆっくりベッドから起き上がった瞬間、見ている方も「あれ?これニナ?累?」って一瞬混乱する。そこに「ニナさん!」って、なお一層華やかな雰囲気になった土屋さんが部屋に入ってくる。あそこで2人の攻守が逆転したことが見ている方にも伝わるんです。2人の芝居、佇まいは素晴らしかったですね。

  • “入れ替わり”シーンに関しての
    こだわりがあれば教えて下さい。

    この映画の大きなテーマでもあるので、最初は映像的にすごくたくさんCGを使うかとかいろんな案が出たんです。でも突拍子もないものを作るより、ちゃんと傷が伸びていって入れ替わるという、一番シンプルな方向に落ち着きました。やっぱり2人のお芝居が一番の見どころだと思うので、それを邪魔しない形がベストだと思ったんです。キスシーンに関しては最初はドキドキしたけど、しょっちゅうしてるのでだんだん慣れてきましたね(笑)。もちろん美しいシーンではありますが、あくまでも“入れ替わりの手段”としてのキスなので、そこは恋愛感情が伴う烏合(横山裕)とニナのキスとは全く違うところです。

  • 劇中劇の舞台撮影は
    いかがでしたか?

    僕は舞台の演出をやったことがないので、正直すごく大変で精神的に追いつめられるものを感じました。でも結果から言うとすごく面白い体験だったし、今後舞台の演出をやってみたい! とまで今は思っています。まず映像と舞台では見せ方が根本的に違う。映像はお芝居の一部を切り取っているけど、舞台はずっとお客さんに見られているわけだから常に演じていなければいけない。あとはよく言われていることですが、映像は役者を縦に動かすけど、舞台は横に動かす。つまり芝居のつけ方が全く違ってくるのも新鮮で勉強になりました。

  • 土屋さんの「サロメ」での
    ダンスも圧巻でした。

    すごいですよね! ダンス自体ももちろんすごいんだけど、あの踊りの中に累の成長も表現されている。だからダンスを見ていながら、お芝居を見ているようでもあるんです。

  • 作品が完成した今、
    伝えたいことは?

    とにかく土屋さん、芳根さんのお芝居がかっこいい! に尽きますね。2人のお芝居を存分に楽しんでもらって、その後にご自身の中に去来した感情の意味を考えてもらえれば嬉しいです。

  • 監督:佐藤祐市

    1962年8月18日生まれ、東京都出身。
    主な映画監督作品は『シムソンズ』(06)、『キサラギ』(07)、『守護天使』『ブラック会社に勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない』(09)、『ストロベリーナイト』(13)、『脳内ポイズンベリー』(15)など。『キサラギ』で第50回ブルーリボン賞・作品賞、2007年新藤兼人賞・銀賞、第31回日本アカデミー賞・優秀作品賞、優秀監督賞を受賞した。演出を担当したTVドラマは、「ウォーターボーイズ」シリーズ(03・04・05)、「アテンションプリーズ」(06)、「シバトラ~童顔刑事・柴田竹虎~」(08)、「ストロベリーナイト」シリーズ(10・12)、「絶対零度~未然犯罪潜入捜査~」(18)など多数。